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【トランスリンクニュース3】
コンピュータ関連特許のクレーム作成とその翻訳について

特許発明を翻訳する者としては、まずは特許明細書に記載された発明者及びその出願人の発明、技術、権利範囲などを正確に、そして分かりやすく第二外国語にて表現しなければならない。しかし、特許翻訳者として単に日本特許明細書をその通りに間違いなく翻訳するということでいいのだろうか。日本特許出願を例えば米国に出願するということは、翻訳された特許明細書が米国の特許法、審査基準及び判例に沿って最適の権利が取得できるような形式に整えられていなければならない。この意味から、特許翻訳者といえども常に米国判例動向に注意を払い、翻訳明細書が不備なく、対象国において最適な権利がスムーズに取得できるように仕上げていかなければならないのは言うまでもない。

そこで、今回はコンピュータ関連発明のクレームを作成する、そしてそれを翻訳するにあたって注意すべきことを、最近の米国特許判例から考えてみたいと思う。近年、いわゆるビジネスモデル発明が特許として認められることは少なくなったが、多くの分野でコンピュータが利用され、その結果コンピュータの関連しない発明はないといっても過言ではないくらい多くのコンピュータ関連発明が生まれてきている。このコンピュータ関連発明についてクレームを作成することも、また特許翻訳者がこのようなコンピュータ関連発明を翻訳する機会も大変多いと思われるので、まずはこの分野の米国特許判例を概観し、そこから読み取れるいくつかの注意点をまとめてみたいと思う。

1)コンピュータ関連特許に関する米国判例動向

コンピュータ関連特許に関して、全体として発明がプログラムの記述のみに関するようなときは特許されないが、コンピュータのデータ構造やプログラムのような機能の記述的要素がコンピュータ読み取り可能な媒体に記録されると、その媒体がある製品または機械の一部としてクレームされていれば、特許されるとしている。(MPEP2106.1)
この機能記述的要素は、特許クレームでは通常機能的表現クレーム(Means or step plus functionクレーム)を用いて表現されるが、この解釈をめぐっては長い間混乱をしていた。
すなわち、米国特許法第112条6項には、機能的表現のクレーム(Means or step plus function 以後ミーンズクレーム)の技術的範囲は、明細書に記載されている構成とその均等の範囲までとすると記載されているが、アルゴリズムを含むミーンズクレームについてのこの6項の解釈をめぐっては、長い間PTOとCAFCで論争があった。PTOは特許クレームを妥当な限り広く解釈していたため、ミーンズクレームの特許がアルゴリズム自体を含むとして特許されなかったこともかなりあった。

しかし、1994年のDonaldson判決において、ミーンズクレームは厳格に第6項に規定されたように明細書に記載されているものとその均等物に限定されるべきであるとされた。その結果、アルゴリズムが記載された記録媒体発明や、プログラム発明、そしていわゆるビジネスモデル発明がState Street Bank判決(1998)において特許として認められるようになった。しかしながら、State Street Bank判決以降ぞくぞくとコンピュータを用いたビジネスモデル特許が権利化され、発明適格性の上から多くの議論がなされてきたのは承知のとおりである。

このような議論に一定の基準を示したのが、CAFCが2008年に示したBilski大法廷判決である。この判決によれば、方法発明は、第101条の特許適格性を満たすためには、その方法が特定の機械または装置と結びついているか、特定の物品を異なった状態か物に変換するものでなければならないとした。
この新たな基準は、機械または変換テストと呼ばれ、2010年には最高裁でも支持され、コンピュータ関連発明の特許性を判断するうえで重要な基準となっている。

Bilski判決を受けて、米国特許庁は新たな審査基準を発表しているが、これによればコンピュータ関連発明のクレームは機械又は変換クレームをクリアしているだけではなく、特定の機械・装置の使用又は物品の変換がクレームの範囲に意味のある限定を加えているか、意味のある追加の解決動作をするということを示さなければならないとしている。
その結果、特許対象ではない方法発明に単に読み取り可能な記録媒体という限定を加えても特許とはならないという判例も出てきている。(Cybersource 事件 2011) 

ところで、最高裁はBilski判決を追認したが、機械又は変換テストが唯一のテストではないとして、機械又は変換テストを満たさなくとも特許される発明に余地を残している。
機械又は変換テストを満たさないが特許される発明とはどういう発明なのかは今後の判例を待たなくてはならないが、今年米国最高裁はコンピュータ関連発明に関して、Alice Corp. v. CLS Bank International事件で新たな判断を下すことが期待されているので、この点においても注目しておきたい。

2)コンピュータ関連特許のクレーム作成者と特許翻訳者の留意点

コンピュータ関連発明についての判例や審査基準の流れを簡単に見てきたが、これを踏まえてコンピュータ関連特許のクレーム作成者やその特許翻訳者として留意しておかなければならないことを考えてみたい。

まず、コンピュータ関連特許のクレームは機械又は変換テストをクリアしなければならないので、形式的にそのクレームが特定の機械又は装置と結びつくように、または特定の物品を異なった物品や状態に変換するという点に留意しながらクレームを作成し、翻訳することが必要であろう。例えば、コンピュータ関連特許のクレームでは、コンピュータに行わせる機能を表現することが多いので、方法クレームの形式をとることが多いと思われるが、機械又は変換テストを考慮し、構造的なクレームを用意することも必要と思われる。この意味から、クレーム作成者とその翻訳者は、

1. 構造的なクレームとして、特許対象とはならない方法発明を単にプロセスを記録した記録媒体としても特許されることはないが、特許対象となると思われる方法発明についてはプロセスクレームだけではなく、機械としての記録媒体のクレームを作成しておくことを検討する。
2. 機械又は変換テストをクリアするために、プロセスクレームを機械としての構造クレームに置き換えたものも検討する必要がある。たとえば、memorizing the datastreamをmemory for storing the datastreamとし、controlling the memory to ~をcontroller for ~というように置き換えたクレーム。                                   

次に、そのような構造的なクレームにおいて、特定機械・装置の使用又は物品の変換がクレームの範囲に意味のある限定を加えているか、意味のある追加の解決動作をするかどうかという点が重要になる。この点については、意味ある限定や意味ある追加の解決動作となっているという点を意識して、明細書の中に特定機械・装置の使用や物品の変換のもたらすその作用効果を十分に記載しておくが必要であろう。また、クレームの要件の一部に
その作用効果的限定を加えることも検討する必要があろう。