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【トランスリンクニュース2】
米国判例に見る翻訳の留意点

TOSHIBA CORP. V. IMATION CORP et CAFC No.2011-1204 2012.6.11

本件は東芝が米国IMATION他を2件の特許(USP5892751、USP5831966)の特許侵害で訴えたものであるが、その中で1件の特許USP5831966(以後966特許と呼ぶ)を巡るクレーム解釈で特許翻訳上参考となる解釈がなされたので以下に紹介する。


1.966特許の争点
966特許は、DVDのような円盤状記録媒体に関し、その記録媒体がその媒体の構造についてのID情報を記録する管理領域を持つというものである。そのメインクレーム1は、
1.A recording medium comprising;
At least one recording plane, wherein each recording plane on which data is recorded includes:
A data region in which data is recorded; and
A management region including number-of-recording planes identifying information that represents the number of recording planes of the recording medium and recording-plane identifying information that uniquely identifies that recording plane.
原告は、被告が生産している単一面、単一記録層のディスクが本クレームを侵害しているとして提訴したものであるが、連邦地裁はrecording-plane identifying information that uniquely identifies that recording planeとは、 (複数面にある)記録面を再生するための情報と解釈し、単一面のディスクは非抵触とした。これに対し、原告は単一面のディスクであっても、全体として媒体上の記録面の数を示すものであるとして上告したものである。


2.CAFCの判断
CAFCは原告の意見を採用し、クレームの明白な表現(plain language)は、number-of-recording planes identifying informationが記録媒体の記録面の数を示すといっているにすぎず、両面ディスクか単一面ディスクかに限定されるものではないとした。そして、クレーム1は、明細書で開示されたディスク面の数に拘束されるものではないとして、被告のディスクは原告966特許を抵触するものとした。


3.コメント
通常クレーム解釈に疑義が生じた場合には、明細者や審査経過を斟酌して解釈されるというのが一般であるが、判決はクレームの表現が分かりやすく明確なときには、明細書の実施例に捕らわれることなく文言通り解釈すべきであるとした。
この判決から言えることは、特許翻訳にあたっても、明細書の実施例にとらわれず出来るだけ分かりやすく明確な表現を心掛けるべきであるということである。翻訳において実施例に捕らわれて「複数」を入れていたら、今回のCAFCの判決にはならなかったと思うし、反面いたずらに上位概念の表現を用いることも発明の概念を広げ、公知事実を含むことになってしまうことになるので、注意を要するところである。