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【トランスリンクニュース6】
米国判例に見る翻訳の留意点(4)
Williamson v. Citrix Online
770 F.3d 1371 (CAFC 2014), 792 F.3d 1339 (CAFC 2015)

日本の特許明細書を米国特許明細書の形式に従って翻訳するとき、日本の特許クレームにしばしば「~~を固定する手段」とか「~~を制御する手段」というような機能的表現が使われていることが多い。従来このような場合は“means for fastening ~”とか、“means for controlling ~”というようなmeans plus functionクレームのかたちで翻訳することが多かったが、means plus functionクレームと認定されると、第112条f項が適用され、そのクレームの権利範囲はその対応構造とその均等の範囲に限定されることなる。


このため、最近では特許法第112条f項の適用を避けるため、meansという用語を避けて、module、unit、mechanismというような用語を使うのが一般化している。これまでの判例では、たとえばLighting World, Inc. v. Birchwood Lighting , Inc.(382 F.3d 1354[CAFC 2004])に示されたように、meansという用語が使われていないクレームでは、第112条f項が適用されないという強い推定がはたらき、十分に明確な構造が示されていないということが証明されない限り、この推定を覆すことはできなかった。この結果、これまでは翻訳実務的にはmeansという用語に代わって、module、unit、mechanismというような用語を使うようになっている。


しかしながら、上記したWilliamson事件では、CAFC大法廷が、これまでのmeansという用語のないクレームでは第112条f項が働かないとする強い推定基準を下げ、第112条f項を適用しやすくしたという点で、注目すべき判決である。

このWilliamson事件の判決では、クレームにある“control module”というクレーム要件は、特定の構造を示すものではなく、moduleという用語は単にmeansの代わりに用いられているだけであると認定された。その結果、第112条f項が適用されそのクレームは無効となった。

この判決で、(第112条f項が適用されるかどうかの)基準はクレームの用語がその構造を明確に示すものと当業者に理解されるかどうかであり、クレームの用語が明確な構造を示すものでもなく、単に機能を示すようなものであれば、第112条f項が適用されるとした。


この判決を踏まえ特許翻訳者としてはどのような注意が必要であろうか。これまでは第112条f項の適用を避けるために、単にmeansという用語の代えてmodule、unit、mechanismというような用語に置き換えてきたと思うが、これだけでは不十分であるということを示したのが本判決である。

実質的に第112条f項の適用を避けるためには、より具体的な構造をクレームに記載しなければならない。これは基本的には日本語特許明細書を起稿する人が米国判例を十分に考慮してドラフティングをしなければならない問題であるけれども、特許翻訳者としても出願人と十分なコミュニケーションを図りながら少なくとも以下のような点に留意して翻訳すべきであろう。

 単純にmeansに代わる用語として置き換えるのではなくして、その要件の構造や性格・性能を意識して明細書本文の発明の詳細な説明における用語との整合性を図りながらdevice, module, unit, mechanism, part, circuitなどの用語を十分吟味選択して使う。

 出願人とコミュニケーションを図りその意図を理解したうえで、クレーム要件の構造や性格・性能を示すより具体的な用語、たとえばsensor, memory, controller, fastenerのような用語を使うことも考慮する。